老年について(著:キケロ)

clemenskrauss2008-11-14

老年について (岩波文庫)

老年について (岩波文庫)

カエサルと同時代を生きた政治家で著作家キケロ晩年の作品。一般に忌むべきものとされている老年について、ポエニ戦争の立役者大カトーの口を借りて謳いあげる一冊。

登場人物は大カトー大スキピオの孫で後にカルタゴを滅ぼす小スキピオ小スキピオの友人ラエリウス。ギリシア譲りの対話形式で書かれているけれど、プラトンのように問答を積み重ねるようなものではなく、若いスキピオとラエリウスに対して齢80を超えた老カトーが老年の素晴らしさを一方的に語るといったもの。本書において二人の青年の存在はまったく副次的なものであるといってよく、大カトーの口を借りてキケロ自身が「こうありたい自分の老後」を綴ったものといえる。

キケロよりは一世紀前に元老院を主導してローマを地中海の覇者とし、カルタゴを破った英雄スキピオ・アフリカヌスが元老院に派閥を形成しようとすると見ると共和政の危機とばかりにこれを失脚させ、晩年に至るまで政治的な影響力を持ち続けた大カトー。作品中ではローマ人らしく政務の傍ら農園の管理にいそしみ、またギリシア文学に打ち込んだと描かれている。
一方、元老院ひいては共和制の守護者を自任しまた周囲からも扱われていたキケロだけれど、『老年について』を執筆したのはカエサルが終身独裁官に就任し、政治的影響力が低下しイジケて執筆活動に打ち込んでいた頃。60歳を過ぎ老いの足音を感じていた彼が、尊敬する大カトーの口を借りて鬱屈した思いを著作にぶつけたくなった気持ちも分からないではありません。

キケロの著作は以前からちょっと興味があったのだけど、実際に手にしてみたら思ったよりも読みやすかったので、他のものも機会があったら手にしてみたいと思う。

イチ