檸檬 (著:梶井基次郎)

檸檬・冬の日―他九篇 (岩波文庫 (31-087-1))

檸檬・冬の日―他九篇 (岩波文庫 (31-087-1))

仕事が忙しかったり、なにか悩み事を抱えていたり、体調が思わしくなかったり、どうしようもなく気分が滅入ってしまうときってあったりしますよね。そんなときに限って昼間なのにどんより雲って薄暗く、北風なんか強く吹いたりして、姿勢だけでも上を向いてなんて思ってもいつの間にか気がついたら自分の足元を見て歩いていたり。

まあ自分の抱える悩みなんて高が知れてるようなモノなのだけど、そんな昼なのに薄墨を垂れ流したような曇り空の冬のある日のこと。
昼ご飯を食べに会社の外に出て歩いているとき、ふと気がつくとすぐ自分の目の前のアスファルトの上に赤・青・緑・黄色と色とりどりのm&m'sチョコレートが散らばっている。ただそれだけのこと、それだけのことが無茶苦茶面白かったんですよ。灰色の空、灰色のアスファルトモノクロームな世界に突如として現れた着色料の化身のようなカラフルな存在。周囲の色という色を全てその小さな粒の中に吸い込んでしまったようなチョコたち。その対比があんまり見事で、きっと誰かが袋を開けようとして撒き散らしてしまったに違いないm&m's達が、あたかもそこにあるべくしてあるような存在感を主張していました。

これって梶井基次郎檸檬の世界ですよね。もっとも我らがm&m'sは、清々しい香りも発しなければ瑞々しい重さもない人工物で、舞台も丸善ではないただの道端、自分の悩みなど彼が感じていた閉塞感の1割ほどにも当たらないのだろうけど、きっと彼が感じた心の動きの1割くらいは体験できたのではなかろうか。
檸檬」、久々に読み返してみてもやっぱり面白いっす。

イチ