ラケス 勇気について(著:プラトン 訳:三嶋輝夫)

ラケス (講談社学術文庫)

ラケス (講談社学術文庫)

プラトン初期の対話編の一つ、ラケス。恥ずかしながら某古本屋で手にするまで題名すら知らなかったのですが、とても面白く読めました。


年頃の息子を持つリュシマコスとメレシアスは、偉大な父親を持ちながらも自らがその資質を十分に受け継ぐことができなかったことを大変悔やみ、国政にかまけ息子の教育に十分に力を注ぐことのできなかった父親たちの失敗を繰り返さぬよう、息子達にはしっかりとした教育を受けさせたいと思っています。
重装武闘術こそが若い男性が学ぶのに良いと人から勧められた二人は、ラケスとニキアスと言うアテネの高名な将軍を招いて相談をするのだけど、ニキアスは息子達に学ばせることを積極的に勧めたもののラケスは何の役にも立たないと意見が割れてしまう。そこに登場するのがソクラテスと言うわけなのですね。


ソクラテスの登場をもって、リュシマコスとメレシアスの息子はどこかへ忘れ去られてしまうのですが(笑) 彼はリュシマコスやメレシアスの相談について、果たしてここにいる誰かが何らかの助言を与えるに相応しい人間であるのかを、対話を通して吟味していくことになります。
解説にもあるけれど、「あるもの(A)が別のあるもの(B)に生じれば、Bをよりすぐれたものにすることを我々が知っており、かつAをBに生じさせることができるとき、我々はどのようにすれば人がAをもっとも容易かつすぐれた仕方で獲得できるかについて助言すべきその当の対象、すなわちAが何であるかを知っている」必要があると。つまりは魚を使って美味しい料理を作るには、魚博士じゃなくって料理人であるべき、てことでしょか。リュシマコス氏の教育問題に話を戻すと、Aに「徳」、Bに「心」を入れると理解しやすそうです。


「息子達に教育を通じて徳を身に付けさせるための助言を与えるには、最低限徳とは何であるかを言えないとネ!」というソクラテスの発言に乗ったラケスとニキアスは対話を通じて否定され一同は行き詰ってしまい、最後に「若者達だけじゃなくて、ボクらも学んで成長しないとネ!」でまるく収まるのですが、その過程がなかなか面白い。この薄い本の、更にその半分が訳注と解説で占められているような分量にもかかわらず、考えさせられたりニヤッとさせられます。


しかしまあ、ソクラテスさんも普段からこんな感じじゃ嫌われるよなぁ。幸いにしてこの話の登場人物からは(プラトンの描写によると)一目置かれているけれども。
こんな人に今夜の夕飯についてうっかり相談しちゃったりしたら大変だろうなぁ。と、焼酎を飲みながら改めて読み返して、ものすごく俗なことを考えてみたり。


イチ