大江戸美味草紙(著:杉浦日向子)

大江戸美味草紙(むまそうし) (新潮文庫)

大江戸美味草紙(むまそうし) (新潮文庫)

NHKの「コメディお江戸でござる」が好きでした。
なにもえなりかずきファンなわけでもなく、ドタバタ喜劇はそれはそれで面白いけれど、お目当ては番組後半の杉浦日向子さんのお話。前半のコメディを時代考証の観点から突っ込みを入れたり、江戸の人々の暮らしぶりを教えてくれたり、最期までどこか硬さが残っていたけれど、生きた江戸の風俗を面白く聞かせてくれました。話の端々に、お酒好きらしさがちらほらと見え隠れしていて、見ていて親近感を覚えたものでした。

この本は僕が手にした杉浦日向子さんの著作の2冊目で、花のお江戸の人々の生活を食の観点から解説した本。当時の食を扱った川柳をキーに文章が綴られていて、これがまた面白い。例えば、

おそろしきものの食いたき冬の空

これ、なんだと思いますか?冬が旬の恐ろしいもの。河豚。
誰だって死にたかぁない。でも食いたい。まだ河豚のどこに毒があるかも解っていなかったそうで、たまに当たるので「てつぽう」なんて呼ばれていた時代。

死ぬなかと雪の夕べにさげて行き

独り者同士、一杯やろうと雪の中さげて行くのはもちろん河豚。おっかない、食いたかぁないなんて意気地のないことは言いっこなし。

片棒を担ぐゆうべのふぐ仲間

運悪く、当たってしまったらハイさようなら。丸い棺桶を運ぶのはゆうべのふぐ仲間たちと言うわけだ。

徹底的に死を嫌忌して人の目から隠し切ってしまい、小学生なんかが「人は死んでも生き返ることもある」なんて答えてしまう今の世の中。死は生の延長線上にあるものという当たり前のことが、感じにくくなってしまった現代とは違い、江戸の人たちにとって死は日常のひとコマだった。
生と死とが隣り合わせと言うことを実感として解っている人でなければ、絶対に詠めないようなこの軽妙さが面白く思われました。

イチ