増補 幕末百話(著:篠田鉱造)
- 作者: 篠田鉱造
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/04/16
- メディア: 文庫
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これがとにかく面白い。談話を聴きとった対象が元武士や商人、大名家の大奥へ勤めた女性など多岐にわたり、その内容も幕末の物騒な人斬りの話や吉原や役者の妻の話、貧乏旗本の話や和宮のご降嫁の折の話など、特に体系付けられているわけでもない。全く何の脈略もない話の連続なのだけど、どれもが幕末から明治の初年に掛けて生きた人々の生き生きとした談話であり、まるで幕末の古老たちが茶でも飲みながら若き日の思い出話を語ってくれるようで思わず引き込まれてしまう。
例えば維新後に『関東巡察』やら『奥羽探題』なんて書かれた旗を掲げて巡回してくる一団がいたそうで、村々では徳川さまに代わるものとして総がかりで御馳走をして接待をしたりしたそうなのだけれど、何のことはない、大赦令によって牢を出されたゴロツキどもが官吏を装ってやってきたものだった。『氷川談話』で勝海舟はこの大赦令について「どうせ大した悪事はできないだろうから」なんて言っているのだが、地方ではこんなことも起こっていたわけだ。
また、ご一新前は牛肉を食うのは精根の尽きた病人くらいで、薬代わりにと鼻に栓をし神棚仏壇へ目張りをしてから食べ、調理に使った鍋などは庭へ持ち出し煮え湯を掛けて二日間晒したのだとか。それが徳川慶喜が豚を食べるというので豚が流行し、その後明治の世になって外国人たちが多くやってくると次第に牛肉食が一般に広まったという。
僕はあまり小説を読みませんが、まだ一般にこの本が手に入りにくかった時代は時代小説家の虎の巻として珍重されたこともあるそうで、一昔前の時代小説にはここから案を得たものも少なくないのだとか。
篠田鉱造はのちに明治百話、幕末明治女百話、銀座百話と続編をまとめているので、こちらも読んでみようと思う。
時代ものがお好きな方は、是非にオススメ。
(イチ)