とんでもねえ野郎(著:杉浦日向子)

clemenskrauss2008-11-20

とんでもねえ野郎 (ちくま文庫)

とんでもねえ野郎 (ちくま文庫)

これもまた追っかけている杉浦日向子の漫画作品。

エッセイなどは過去に雑誌に収録されたものを寄せ集めたものもあったりして玉石混交になりがちなので、もう追わなくても良いかな・・・と思ってしまうこともあるけれど(残念ながらもう新作は出ないのだし・・・まあ見かけたらきっと手にするんだろうけれど)、やはり本職だった漫画は格別。

とんでもねえ野郎。その題名の通り主人公はとんでもねえ野郎なのです。
時は幕末。下っ端ながら御家人で、道場なんて構えているくせに剣術のほうはからきしダメ。借金は踏み倒すは、無銭飲食を繰り返すは、友人を引っ掛けたりやりたい放題。
初めて読んだときは、それでも、きっといつかどこか良いところを見せるんじゃないかと思ったりしていたのですが、結局最後の最後までその調子(笑)本当にとんでもねえ野郎なのだけど、でもどこか憎めないんですね。きっと彼にとっては幕末の動乱も何も関係ないんでしょうねぇ。とても同じ作者の「合葬」とは同じ時代とは思えない。でも、意外とこういう人が社会の変化に対応していけるのかも知れない。

個人的には、日向子さんの最高傑作はなんと言っても「百日紅」と「百物語」。特別絵の上手い作家ではなかったと思うのだけど、これらの作品では時々見事な構図のカットがあってハッとさせられるのですが、この「とんでもねえ野郎」ではそういった瞬間は感じられなかった。きっと両作品を描く際には相応の覚悟というか気負いのようなものがあったのだろうなと思うのだけど、この作品ではもっと肩の力を抜いて気楽に書いたんでしょうね。
オススメ。

イチ