百日紅(上)(下) (著:杉浦日向子)

百日紅 (上) (ちくま文庫)

百日紅 (上) (ちくま文庫)

百日紅 (下) (ちくま文庫)

百日紅 (下) (ちくま文庫)

江戸時代の絵師葛飾北斎と娘お栄、そして居候の善次郎(後の渓斎英泉)らの日常を描いた短編集。江戸の華たる火事に喧嘩は言うに及ばず、笑いあり、怪談あり、艶あり、心中ありの三十篇。


杉浦日向子さんの本はエッセイ調のものはいろいろと読んでいたのだけど、もともと彼女が世に出るきっかけとなった漫画はこれが初めて。本屋で手にしてちらっとめくってみたことはあるものの絵がイマイチ好きになれず、そのうちには読みたいと思いつつもあんまり興味を抱かなかったんですね。
ところが年末たまたま職場近くの古本屋を覗いてみたら、日向子さんの漫画作品が5冊も並んでいるじゃありませんか。どうせいつかは買うものとまとめて大人買いしたのですが、これが大正解。面白くてあっという間にみんな読んでしまいました。


どの話も気が利いていて深みがあって、それでいて話を描き過ぎない。特別絵が上手いわけではないと思うのだけど、例えば「美女」で隠居が絵の世界を覗くシーンなど思わずぞくっとさせられるし、他にも「離魂病」のお栄の手にしたガラス球の中の金魚がタライに移っているコマのような、なんでもないシーンで使うちょっと意外な構図があったり、浮世絵を下地にしたようなシーンがあったりして楽しかったりする。
どの話もいいけど、「野分」「美女」「離魂病」「鬼」あたりが白眉じゃなかろか。


これ、NHKあたりで45分くらいの時代劇にしたら絶対面白いですよ。


イチ